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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)140号 判決

原告 谷光子 外一名

右両名法定代理人親権者母 谷美香

被告 国

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

原告らが日本国籍を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告ら法定代理人谷美香と日本国民である訴外大松正治との間の子として、昭和四九年一月二一日原告谷光子が、昭和五〇年九月二四日原告谷貴代がそれぞれ出生した。

2  大松正治は、原告谷光子については昭和五〇年四月一九日に、原告谷貴代については昭和五二年九月三日に、それぞれ認知の届出をなし、その旨が大松正治の戸籍に記載された。

3  したがつて、原告らは、国籍法二条一号の規定により日本国籍を取得した。

4  よつて、原告らが日本国籍を有することの確認を求める。

二  被告の認否

1  請求原因1のうち、原告谷光子が昭和四九年一月二一日に、原告谷貴代が昭和五〇年九月二四日に、いずれも谷美香を母として出生したこと及び大松正治が日本国民であることは認め、その余は不知。

2  請求原因2は認める。

3  請求原因3の主張は争う。

三  被告の主張

国籍法二条一号にいう「父」とは、事実上の父を含む趣旨ではなく、法律上の父を意味しているものである。しかるところ、原告らは、出生後に大松正治から認知されたものであるから、出生当時には同人が原告らの法律上の父でないことは明らかである。したがつて、原告らは、右認知によつて日本国籍を取得することはできない。

理由

一  国籍法二条一号は、「出生の時に父が日本国民であるとき」は子が日本国籍を取得するものと定めているが、右規定の「父」とは、法律上の父をいうものであり、自然的血縁関係があるだけの事実上の父を含むものではなく、また、その法律上の父子関係は出生の時点において既に成立しているものでなければならないものというべきである。してみると、原告らの出生後に日本国民である大松正治が原告らを認知していることは当事者間に争いのない事実であるから、原告らの出生の時点において大松正治と原告らとの間に法律上の父子関係がなかつたことは明らかであり、原告らが同条一号の規定によつて出生により日本国籍を取得したということはできない。

もつとも、法例一八条により右認知の効力についての準拠法となる民法七八四条によれば、認知の効力は出生の時に遡及するものと定められているが、国籍法二条は、出生による日本国籍の取得をできるだけ確定的に決定するために出生の時を基準としたものと解されるうえ、旧国籍法(明治三二年法律第六六号)には、現行国籍法二条一号の規定と同旨の規定のほかに認知による日本国籍の取得を認める規定があつた(五条三号及び六条)ところ、現行国籍法においてこれが削除されていることなどを考えると、出生後の認知によつて法律上の父子関係の成立が出生の時に遡及した場合についてまで国籍法二条一号の規定が適用されるものということはできない。

二  よつて、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 菅野博之)

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